抜け毛が増えるという現象は、多くの人にとって単なる美容上の悩みとして捉えられがちです。しかし、実はその裏に、私たちの体が発する重要な危険信号、つまり何らかの病気が隠れているケースも少なくありません。ここでは、抜け毛が示す具体的な病気のサインと、それがどのように関連しているのかを解説します。私たちの髪の毛は、毛根にある毛乳頭細胞と毛母細胞によって作られ、成長期、退行期、休止期という周期を繰り返しています。このサイクルは、ホルモンバランス、栄養状態、免疫システムなど、体全体の健康状態に密接に影響されます。そのため、体内で異常が起きると、このサイクルが乱れ、抜け毛として現れることがあるのです。例えば、内分泌系の病気である甲状腺機能障害は、抜け毛と非常に深く関連しています。甲状腺は首にある小さな臓器ですが、ここで分泌されるホルモンは全身の代謝を調整しています。甲状腺ホルモンが過剰(甲状腺機能亢進症)でも不足(甲状腺機能低下症)でも、髪の毛の成長サイクルが乱れ、髪が抜けやすくなります。これらの病気は、抜け毛以外にも、倦怠感、体重の変化、動悸、むくみなどの症状を伴うことが多く、もしこれらの症状も併せて感じている場合は、専門医の受診を強く勧めます。自己免疫疾患もまた、抜け毛の主要な原因の一つです。最も代表的なのは円形脱毛症で、これは自分の免疫システムが毛根を「敵」と誤認して攻撃してしまうことで、部分的に髪が抜け落ちる病気です。ストレスが誘因となることはありますが、根本的な原因は免疫の異常にあります。他にも、全身性エリテマトーデスなどの膠原病も、髪の毛を含む様々な組織に影響を与え、抜け毛を引き起こすことがあります。栄養の偏りや欠乏も、抜け毛の大きな原因となります。特に、鉄欠乏性貧血は、女性に多く見られる抜け毛の原因です。鉄分は、髪の成長に必要な酸素や栄養を毛根に運ぶ役割を担っています。鉄分が不足すると、毛母細胞への栄養供給が滞り、髪が細くなったり抜けやすくなったりします。ビタミン不足(特にビオチンやビタミンD)やタンパク質の不足も、同様に髪の健康に悪影響を及ぼします。さらに、頭皮の感染症や皮膚疾患も抜け毛を引き起こすことがあります。これらの疾患は、適切な治療を行うことで改善が見込めます。
抜け毛から学ぶ体の危険信号